パネル座談会 日本の原子力、その指針を考える
『原子力文化』という財団法人日本原子力文化振興財団が発行している月刊誌に昨年10月26日に当財団が主催した第47回「原子力の日」記念シンポジウムが特集記事になっていたので、その座談会(田原総一郎、十市勉、武黒一郎、高嶋哲夫)の模様を丸々引用してみます。*1 *2
パネル座談会 日本の原子力、その指針を考える --プラント輸出戦略と稼働率向上をどう図るか
■日本が中東産油国の原子力発電所建設の受注に失敗したのはなぜか
田原総一郎(以下「田原」) *3
日本が油を買っているアラブ首長国連邦(UAE)など中東の産油国が原子力発電をつくろうとして、何とその八基は韓国が受注してしまった。
日本が原子力発電所をつくる技術は世界のトップであることは間違いないから、日本が当然取るであろうと・・・・・・。
しかし、何でこういう事態になったのか。
十市勉(以下「十市」) *4
UAEは人口が年率六%くらいで増えており、世界でも最も高い伸びです。電力需要も八〜九%の割合で増えていて、電力が足りない。発電の九八%は天然ガスです。石油は輸出して外貨を稼がないといけないから自国では使わない。
天然ガスも日本の電力会社などに輸出している商品です。そうなると、原子力がコスト的にも電力量の安定確保の面でも非常に優れており、原子力の導入を計画して、具体的な国際入札を行ったのです。
武黒一郎(以下「武黒」) *5
UAEから「プラントの建設だけではなくて、運転保守もセットにしてやってほしい」と。そこで韓国、フランス、日米連合でそれぞれお電力会社が関わった形での取り組みになり、韓国は韓国電力が頭になった。
田原
メーカーでなく、電力会社が頭になったと。
武黒
ええ。ところが、日米連合でフランスはメーカーが先に立っていた。UAEから見ると、どういう役割分担になるのか、わかりにくかったようです。もう一つ、韓国は非常に長期間の運転保守を提示しました。
田原
「六○年間電力を保証する」と言った。
武黒
韓国は、普通、我々がやらないような保証を申し出ました。また価格的にもかなり低かった。そして原子力倍賞や竣工が遅れたときのリスクを韓国では国営会社が自分で負うことにした。日米連合では、民間会社がそのようなリスクを完全に負い切れないために、価格に転嫁せざるを得なかったという構図の違いもあったのです。
田原
韓国のメーカーと運転する電力会社と国、三位一体でやった。何で日本はバラバラなのか。
武黒
日本ではプラント輸出はメーカーがやるものという固定観念があった一方、韓国では国を挙げた総合的な取り組みになっていた。そして、民では取り切れないリスクをどうやってヘッジ(防止)するかという条件整備が、その時点ではあまり十分ではなかった。
田原
原子力だけではなく、日本は技術は高いけど、商売が下手じゃないのか。
武黒
もう少し新規導入国の期待していることが何なのかをよく理解しなければいけない。それには巨額のお金が要る。どのようにしてファイナンスで支援できるか。この二つをしっかりと、相手のニーズに応じた形で提供するビジネスの仕方に変えていかないと、この状況から抜け出ることはできないでしょう。
田原
今年になってベトナムが原子力発電所を二基発注し、チェルノブイリ事故を起こした、あのロシアが取ってしまった。日本の原子力発電を世界に売るとき、いったいどこに問題があるんですか。
高嶋哲夫(以下「高嶋」) *6
小説を書くときには、編集者に「まず原子力発電所を何とか壊してくれ」と言われるんです。どうやって壊すか考えるのですが、いろいろな防御がされていて、なかなかそれは難しい。やはりヒューマンエラーしかない。
田原
人間の失敗。
高嶋
それくらいしかないのです。ですから、やはり「日本の原子炉は、世界で一番安全なものである」ということを売りにするのが、一番いいのではないでしょうか。
武黒
原子力の場合には、まず安全な設計をしなければいけない。そして、それを運用するときも安全な条件をきちっと守りながらやる。この二つは不可欠なわけです。
きちっと実行するということが、個人だけではなくて、組織として必要なことで、それを最優先するという安全文化が原子力には欠かせない。
田原
それができてないロシアの原子炉を買って、ベトナムは大丈夫なのか?
武黒
世界の四○○以上の原子力発電所が加入している世界原子力発電事業者協会(WANO)のキャッチフレーズは We are hostage of each other(お互いの捕虜である)。「世界のどこかで誰かが事故を起こしたら、世界中みんなだめになってしまう、という危機感を共有して、安全を最優先にするような仕事ぶりをお互いに守ってやりましょう」と努める組織をつくって、チェックしています。
その意味では、今、ロシアもそういう体制の中で努力をしている。ただ、まだまだいろいろな点を改善する余地はあるので、常にお互いに学び合う。そして、そこから改善をしていく。その意識を共有しなければいけません。
私は国際原子力開発という会社で、ベトナムからも受注を目指したいが、安全文化は、我々が持っていて相手に渡すわけにいかない。現地で一緒につくって共有していかなければいけない。その仕事は、我々の大事な任務の一つだと思います。
森本
日本の原発輸出は、従来、欧米市場に対して非常にビジネスライクに「商品力で価格が決まる」というように、収益を中心に契約してきた。しかし今から原発をつくろうとする途上国に対して、これと同じやり方でアプローチしたのが今回の敗因の一つだったのではないか。
途上国に対しては国が国家的な取り組みをして、政府がトータルなオファーをしなければならず、例えば、ODAや融資、あるいは人材教育や場合によっては武器売却、共同開発、環境対策、農業支援など、相手のニーズに応じるような提案をしていかなければ、途上国の契約を日本が取ることができない。その意志決定をするために政治の仕組みがまだできてないと思います。
政府与党に資源エネルギー特別委員会や資源・エネルギー対策諮問会議をつくって、産業界、財界がきちっと意見を申し述べて、国、政府が全体として取り組むという体制をとらなければ、これからは中国に負けるということになるかもしれません。
田原
そうです。
森本
中国がやがて提供国に参入してくることを考えると、日本の今までの取り組みは発想の転換を図る時期にきているのではないか。
武黒
途上国になると、相手は国であって、電力会社ではない。国ベースでのやり取りがない限り物事は進みません。国は、どうやったらその国が発展するかを考えてやっている。その大きな枠組みの中で原子力も含めてどうやるか。
原子力に場合は、官民の役割もきちっと明確にして、連携して力を出していく。その総合力を試されるのがベトナムだと思っています。
■日本の原子力発電所の稼働率はなぜこんなに低いのか
田原
日本の原子力発電所は現状、稼働率は何%ですか。
十市
去年は六六%、今は七○%くらいです。
田原
何で稼働率がこんな低いんだろう。
十市
アメリカやヨーロッパの国に比べて、定期検査に入るまでの運転期間が日本の場合は一三か月。ヨーロッパやアメリカは一九か月と長い。また定期検査の期間も日本の場合は百数十日、アメリカは四○日と短い。
田原
三分の一?
十市
また、計画外停止と言って、何か小さなトラブルがあって、原子力発電所が止まり、再稼働させるための日数が二○○八年、九年で見ると、アメリカが平均五日間でスタートし、日本は三五、六日となかなか再稼働しにくい。
田原
何で長いんですか。
武黒
原因を徹底的に調べて、再発防止対策をきちっとやって、そのことについて世の中によく理解をいただいて、そのプロセスを全部シリーズでやらなければいけないから、どうしても一回止まっても立ち上がるまでの時間が三十何日かかってしまう。
田原
日本のほうが正しくて、アメリカは少し性急過ぎて、間違いだということですか。
武黒
必ずしもそうではありません。つまり、原因が容易にわかるような事象については、原因が確定した段階で対策を行って、その結果についてお知らせするということは、アメリカでも同じようにやっています。しかしそのプロセスを、日本のように律儀に全部一個ずつ終わってからでないと次のステップにいけないというやり方は求めてない。その違いだと思います。
高嶋
故障で止まった場合、アメリカは故障の程度が軽く速やかに修理できれば電力会社が独自の判断で運転再開できますが、日本の場合は安全第一で国と地方自治体の了解を得なくてはならないんですね。
十市
原子力発電所が所在している市町村の議会や、首長がオーケーと言い、次に県のレベルで県の議員と首長、県知事がオーケーと言ってようやく動く。そういう意味では、国がいくらオーケーと言っても動かない三重構造になっているのです。
田原
地方自治体は非常に慎重である、と。
十市
慎重であるのはいいのですが、安全審査は国が一元的にきちっと責任をもって「技術的に安全だ」と言えば、やはりそれが本来的に正しい。
田原
そうなると、中央集権だという話が出てくる。
十市
アメリカでもヨーロッパでも、安全審査に対しては一元的に国が責任を持っています。
高嶋
自治体と電力会社との約束事で、法的な制約は全然ないが、そういう慣例になっている。地元自治体が納得ができない限りは運転再開できない、と紳士協定的に決まっています。
森本
欧米は物事の思考が非常に論理的で、原発という非常に機微なシステムは常に故障はあり得るわけで、その蓋然性を科学的に究明して、どのような定期検査の期間と、どのような感覚をもったらいいかを科学的にデータで証明して、それで安全性を管理している。日本の場合は「安全」だけではなくて、「安心」というもう一つ別の要素を入れています。
事故が起きて原発を止めると、「やっぱり原発は安全でないから、長い時間かけて検査しているんだ」という逆のネガティブ・キャンペーンに使われて、結果として、メディアが事件や事故を誇張して報道し、リスクを取りたくない官僚制度や地方自治体が、とにかく慎重に慎重にとなる。
田原
停止を長めに・・・・・・。
森本
そうすると、どういうことが起こるか。一三か月の間に一四○日止めるということは、計算上、稼働率はどんなにがんばっても七五%以上にはならない。
欧米は八五%から九○%くらいの稼働率になっています。日本はわざとそういうふうにして、「安全」以外に「安心」という別のルールを持ち込んで、わざと稼働率を低くしている、というふうにしか私には思えない。
田原
少し前、東京電力が故障やひび割れなどを報告してないことが大問題になったことがあった。
武黒
結局、当事者は「この程度のひびであれば問題ない」と自分たちの技術判断をした。「その程度のことであるから、報告するまでもない」と内部で処理してしまった。これはやはり事業としての責任を全うしたことにはならなかったと思います。
つまり、問題が起きたなら、ちゃんと取り組みという姿勢を世の中に見せない限り、信頼は得られないと思います。
田原
GE(ゼネラル・エレクトリック社)の子会社が、故障やひび割れを全部チェックしているのに報告をしなかった。つまり、報告すれば全部止めなくてはいけなくなる。ちょっとしたひび割れとかで止めていたら、稼働率がもっともっと下がってしまう。「安全なのに、報告すると止めなくてはいけないから、報告しなかった」と。
武黒
そういうことがあったと思います。その後、「維持基準」というものができて、日本でも認められるようになり、検査の方法も明確になりました。検査の技量もついてきて、最近はちゃんと評価をして、報告をして、不必要に止めなくてもいい、
田原
今は全部報告できるようになった。
武黒
ええ、報告しなければ、会社として成立しませんから。
■核燃料サイクルができないと将来的に原子力発電が進んでいかない
田原
今、青森県で核燃料サイクル、再処理をやろうとしている。しかし、これが大変遅れている。
武黒
再処理のプロセルはちゃんと動いているのですが、出てくる核分裂生成物を溶けたガラスの中に入れて封じ込めるプロセスがうまく機能しないので、操業開始が遅れている状況です。
田原
フランスやイギリスではすでに再処理をやっている。何でその技術をそのまま日本に持ってこなかったんですか。
十市
やはり日本として独自技術でやりたいと・・・・・・。しかし、新しい技術を開発し、それを実用化につなげるところが必ずしもうまくいってない。新しい技術開発にはそういう面がままあるんですね。
森本
核燃料サイクルの技術に成功すると、多量のウランを常に入手しないでいい、という非常に大きな利点があるので、日本のエネルギー産業にとって、将来、核燃料サイクルはぜひとも成功させてほしいと思う。
田原
絶対に必要です。核燃料サイクルができないと、将来的に原子力発電が進んでいかない。
森本
日本では研究開発と生産化を別のフェーズで、別の場所で、別の人間が別のシステムの中でやることができないで、同じシステムの中で同時に両方やっています。
医学や薬学でもそうだが、日本は基礎的な研究開発の土壌をもう少し広げないといけないのかもしれない。
武黒
アジアでは中国などウランがあまりない国は、再処理をしようとしている。しかし、アジアで商業的な規模でちゃんとできそうな状況になっているのは日本だけです。核燃料死明くる野技術全般に対する日本の技術力や研究開発力の評価は、アジアの中でも大変高いので、日本は責任をもって進め、確立することが必要です。
田原
それにしても再処理はいつ頃できるんですか。
武黒
今の計画では、あと二年で完成する。
田原
また延期にはならない?
武黒
原子力の仕事で期限を切って「急いでやれ」と言うと、ろくなことにならない。むしろ、ここでしっかりと足元を固めることが大事だと思います。
十市
新しい技術ですから、二年後に、絶対であってほしいが、やはりやってみないとわからない面もあります。
しかし、きちっとやらないと、日本の原子力発電そのものが回らなくなるので、時間をかけてもやり遂げないといけないと思います。
田原
議論はまだ尽きないんですが、そろそろ時間になりました。このへんで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
※このシンポジウムの五日後、一○月三一日に日本はベトナムとの間で原子力発電所二基の建設、運転、保守を受注することで合意しました。
因みに上記シンポジウムの1週間前に青森弘前市で行われた「原子燃料サイクル意見交換会」にも田原総一朗さんは参加されていた事を下記のブログ記事で知りました。丸々引用。
核燃・だまっちゃおられん津軽の会ブログ
田原総一郎氏へ講演料110万円
10月19日に弘前市で行われました「原子燃料サイクル意見交換会」について、安藤晴美県議が情報開示請求しました。その結果、わかったことです。
企画は、資源エネルギー庁と青森県の共催で、(株)RABサービスに委託されて行われており、委託料は129万6750円。その内訳は、ジャーナリストの田原総一郎氏の講演料が110万円。交通費8万円。司会料3万円。管理手数料(食費含む)2万5千円。
安藤晴美県議は、この会に参加したそうで、安藤晴美のブログ http://www14.ocn.ne.jp/~harupin/ftop/ajisaidayori/ajisai100910.htm に、感想を掲載しています。
田原総一郎氏は、前半の30分は、原発の必要性と日本の原発の技術がいかに優れているか、また中東やベトナムに輸出できず、韓国に先を越されたのは、日本の商売が下手で、仲間づくりが下手だから・・・・などと述べたそうです。その後の30分は、もっぱら最近開かれた国会での予算委員会の話や中国との尖閣諸島をめぐる問題、反日デモにまつわる中国人の反政府感情などの話をしたそうです。
しかも、安藤県議が、「再処理施設のガラス固化技術が行き詰まっている問題をどう思うか」と質問したのに対し、「困っているのは原燃でしょ?あなた、何かそれで困ることあるの」と発言したそうです。
しかも、最後に、発言した方が安全性の問題を指摘したところ、「あなたのような方が頑張らないと・・」とかいいながら、最後まで答えようともせず、そそくさと部屋を出ていったのだそうです。
こういう不誠実な講師を110万もの大金(税金)を投入して招聘するという県の見識を疑います。(みうら)
上記ブログで紹介されていた安藤晴美県議サイトの該当部も丸々引用
安藤はるみのページ
2010年 10月19日
原子燃料サイクル意見交換会が弘前で開催され出席してきました。
最初に原子燃料サイクルについての説明がなされ、その後、ジャーナリストの田原総一朗氏が講演を行いました(写真)。
てっきり今日の表題「原子燃料サイクル」について、ご本人の考え方を述べるのかと思いきや、前半の30分は、原発の必要性と日本の原発の技術がいかに優れているか、また中東やベトナムに輸出できず、韓国に先を越されたのは、日本の商売が下手で、仲間づくりが下手だから・・・・などと。
その後の30分は、もっぱら最近開かれた国会での予算委員会の話や中国との尖閣諸島をめぐる問題、反日デモにまつわる中国人の反政府感情などの話で、核燃料サイクルの問題を講義してもらうために、税金をたんまりかけて呼んだはずの講師なのにがっかりしました。
「再処理施設のガラス固化技術が行き詰まっている問題をどう思うか」の質問に「困っているのは原燃であり、あなた、何かそれで困ることあるの」と問題をはぐらかす有様でした。
最後に、発言した方が安全性の問題を指摘したところ、「あなたのような方が頑張らないと・・」とかいいながら、誠実に答えようともせず、そそくさと部屋を出ていきました。
ついでに、田原総一郎さんは政治家の講演会では講演料を受け取らない主義だそうです。
http://twitter.com/#!/namatahara/status/12980566806