日本の世論もまた"骨粗しょう症"

自称評論家

 
昨夜、『ビートたけしのTVタックル』にテレビコメンテーターの宮崎哲弥さんが出演されていて、
拉致被害者は一旦返すべきだった」と発言した加藤紘一さんを厳しく批判しておりました。
 
ということで、月刊『サイゾー』2006年9月号*1より宮台真司さんとの対談を以下に抜粋します。

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宮崎
 しかし、それが巡り巡って北朝鮮政策の不首尾に繋がった。歴史は逆襲する。もし日本が"骨粗しょう症"ではなく、9・17小泉訪朝以降、真の国家理性(国益)に沿って行動していたら、ミドル・パワーとしてアメリカと北朝鮮の双方を説得できるポジションを取っていたら、間違いなく東アジアは安定したはずです。もうすぐ文庫化される『M2:2 ニッポン問題』(朝日文庫)を読めば、当時から私たちがそのように主張していたことがわかります。
 
宮台
 小泉エージェント田中均北朝鮮に赴き、"5人出せば継続的経済支援を約束する"と交渉した。北朝鮮は交渉通りにし、約束には5人を一旦北朝鮮へ返すことが含まれた。しかし、外交交渉の基本を踏まえよと言う福田康夫と、米国に尻尾を振る安倍晋三が対立し、「政権が持たない」との一言が決め手になって小泉は5人を返さなかった。この辺から北朝鮮側の読み違えが始まる。昨今の日本は、神経中枢や記憶中枢が働かないの。"手打ち"の中身に噛みつく者もいるけど、それはそれとして、権限を与えられたエージェントが一旦行った"手打ち"を尊重しなきゃ、その後の外交交渉は止まる。後遺症も大きい。交渉が止まりゃ、未来は閉ざされる。交渉が続くとの前提の上に立った日朝平壌宣言北朝鮮が反古にするのも想定できる。北朝鮮は「普通の外交能力」を日本に期待したが、読み違った。このプロセスを理解しているのは総裁候補(編註:収録は、7月中旬)では福田康夫だけだな。
 
宮崎
 まあ、拉致問題は、当時の日本国民にとって特殊で複雑な感情問題と化していたから、実際的には事後の「5人帰国」の判断は難しかったと思う。国民を説得できなかったからね。当時訪朝を推進した小泉首相福田康夫官房長官、そして田中均の過誤は、この「特殊で複雑な感情」の帰趨を事前に考慮に入れていなかったという点ですね。田中氏らは日本の世論もまた"骨粗しょう症"に冒されていることを見過ごし、事態を読み誤った。
 
宮台
 田中氏は、小泉の力量を読み誤ったの。米国は日本に、米国の意を体してアジアで影響力を行使してほしい。だが小泉&安倍は、周囲にケツ舐め国家だと思われて、アジアでの影響力を失った。米国から見れば子分は子分でも「使えない子分」。米国も周辺国も日本を馬鹿にした。
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これをみると、宮崎さんは五人の拉致被害者北朝鮮に戻さなかったことを、「日本の世論もまた"骨粗しょう症"に冒されている」からとしてますね。要は(返すべきだったが)国民感情が原因で返すことができなかったという意味になるかと。しかしだとしたら彼が加藤さんを非難するのは筋違いのような気もするんですが、今回も「番組から頼まれた」のでしょうか?まぁテレビコメンテーターの人に一貫性を求めてもしょうがありませんねw
 
 

*1:「M2われらの時代に」P107

ブッシュよ、頑張れ!

ついでなんで、M2のお二人が前回のアメリカ大統領選前に残した発言をコピっときます。
月刊『サイゾー』2004年10月号 M2 第64回「ブッシュ、頑張れ!? 『華氏911』は左翼のオナニー映画!」
 

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ブッシュよ、頑張れ!
宮崎
 先にも触れましたが、イラク情勢はまだまだ予断を許さないけれども、サドル派の事実上の投降で大きな節目を迎えたといえます。だからアルカイダイラクからチェチェンに戦略の重心を移しつつあるんですね。
 他方、イラクに派遣された自衛隊ですが、これを平定と看做し、オランダ軍に先んじて来春には一旦撤退の運びになるかもしれない。これはW・ブッシュ政権の存続を前提にした話で、ケリーが大統領になれば、また事情が変わるおそれもある。
 
宮台
 それは小さなことだよ。ケリーになって「ブッシュの悪」が除かれれば、晴れて心置きなく「米国のケツ舐め」ができるんで、「ケリーが米国の政策的誤謬を認めた以上、胸を張って自衛隊国際貢献しよう」ってことになり得る。まさに「噛ませ犬問題」の典型例だよ。
 実はもっと大切な問題があるんだ。現在の国際政治の不安定要因は二層に跨っている。第一層は、欧州が重大視するWTO問題で、「米国流グローバル化をルールで制約できるか否か」。第二層は、南側が重大視する構造的貧困問題で、「そのルールは南北問題の解決にも適用されるか否か」。
 ヨハネスブルグ環境開発サミットで話題になったけど、第二層を解決できない限り、怨念でテロが噴出する。でも第一層が解決しないと、先進各国は第二層どころじゃない。しかるに米国は、噴出するテロを口実に第一層で譲らない。だから第一層の解決はない。ゆえに第二層の解決もなく、よって第一層の解決はない。この悪循環をどう断ち切るかだよ。
「ストロング・アメリカ」のケリーは、第一層で欧州に譲歩するつもりはあるのか。そこがポイント。ICC問題でも地球温暖化問題でも遺伝子組み換え作物問題でもブッシュ路線を踏襲するなら最悪だ。僕らがブッシュの敗北で胸を撫で下ろさないためにもブッシュよ、頑張れ!
 
宮崎
 もしケリーが勝っても、当面は踏襲するしかないでしょう。まあ、経済政策でも、東アジア政策でも何やるのかわからないし、正体の知れてるW・ブッシュのほうがまだマシです。残念ながら。もう一期ウォーカー(・ブッシュ)にやらせて、ちゃんと後始末してもらって、旦那よりは政治家として格段と優秀そうな、ヒラリーを待つのがいいんじゃないの?(笑)
 
宮台
 あと、民主党大会と共和党大会を比べて改めて感じたのが、「デプスとセクシーさの乖離」だよ。デプスは陰影や含蓄。セクシーさは華。かつてJFKには両方あったでしょ。ブッシュは知能に問題があって(笑)、デプスにいたっては皆無。でもちょっとお茶目でセクシーなの。ケリーは上院でタフな交渉事をこなしてきただけあって、デプスはある。でもセクシーさが皆無なの。まるでJFKに大差で負けたニクソンみたいに(笑)。
 
宮崎
 で、華を添えるために副大統領候補に据えたのが、"ダミアン"エドワーズ。こないだ田嶋陽子が関西のテレビで「エドワーズって、家で奥さんを殴ってそうな顔してる」とかって放言するから、「んな、滅茶苦茶言うな!」って突っ込んだんだけど、なかなかいい直感かも(笑)。もちろん、なんの根拠もないけどね。
 
宮台
 僕は知り合いの政治家やアーティストに、「セクシーさ」と「デプス」の両方を演出するように勧めてる。小泉首相はデプスもセクシーさも乏しい。でも、ほかの政治家に比べると相対的にセクシーに見えちゃうのが日本の悲劇。「デプス皆無で、ややセクシー」な点で、ブッシュと小泉は似てるよ。デプス皆無はバカということだけど、それを望む勢力が周囲を固めている(小泉の場合は官僚たち)のも似てる。
 
宮崎
 その話は、昔M2でゴアとW・ブッシュの資質の違いを論じたときにも出た。W・ブッシュって「阿呆だけどいい奴」って思わせるところが「売り」なんだ。だから、ウォーカーは基礎教養に欠けるとか、語彙が貧弱だとか、そんなレヴェルの非難を繰り返したって限界がある。ちょっとならやってもいいけど、いつまでも鼻持ちならないリベラル・エリートどもの口真似をしてんじゃねーよ。日本人のくせに(笑)。
 
宮台
 「ニューズウィーク」によれば、過去を振り返ると、見事な演説をする大統領ほど不人気なの。「デプスがある奴ほどセクシーじゃない」という負の相関関係があるみたい。
 話を『華氏911』に戻すけど、町山智浩やおすぎがマイケル・ムーアを弁護して、「大統領選挙の結果を左右する緊急避難的な措置だからいいんじゃないか」って言ってる。でも、それは米国人だけに通用する物言い。欧州人や亜細亜人がコレでいいと思ったら自殺行為だぜ。
 
宮崎
 ムーア監督自身が、そう語っています。「これは米国人自身の手で落とし前をつけなきゃならない問題なんだ」って。ところが、米国から来た若い留学生に「『華氏911』の影響はどう?」って訊いたら、「『華氏911』を観るような子はまず選挙に行かないから、あんまり影響ないだろ」って肩をすくめてた。彼自身もデモクラットで、ケリー支持で、ムーアファンなんだけど。
 
宮台
 ブッシュ支持者で『華氏911』を観たのは3%という話もある。確かにムーアも言うように民主党支持者は人口比で6割。でも米国では有権者登録をしないと投票できない。先の大統領選、カリフォルニア州の怪しい集計でも、州知事のブッシュ弟が民主党支持者の多い低所得者有権者登録させなかったから、ブッシュがゴアと並んじゃった。『華氏911』にはブッシュ陣営を民主党支持に引き込む力はないから、唯一の可能性は、多数派を構成する民主党支持者がちゃんと有権者登録して、投票するようになること。でも、そうなる保障はない。
 
宮崎
 民主党大会後も、ほとんど支持率に変化はみられなかった。米国は、日本とは逆に無党派層や浮動票が少なくなっているといいます。そうなると、いよいよムーア監督の映画が大統領選を左右するとは考え難い。まあ、ケリー陣営も泣き所といわれた金欠病は解消したみたいだから、そこそこの勝負にはなるかもしれないけど。
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おかげで、平和な4年間でした・・・・・・*1
 

*1:まぁ、この二人が何を言おうが大統領選挙には全く影響ないわけですが。カリフォルニアとフロリダの区別がつかないわけですからw

従軍慰安婦はみな強制連行

最終回で従軍慰安婦に関して不思議なことを語っていたので抜粋しときます。
月刊『サイゾー』2006年12月号 M2 最終回「最終回は突然に。M2感動のフィナーレ」
 

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宮崎
 念力主義者に、「是々非々」なんていう高級な状況操作は無理なんじゃないですか?
 
宮台
 念力主義じゃない立場を取ると直ちに「核の傘で平和が守られる」という図式に気づく。でも、これじゃ戦後の国民感情と合致しない。だから左翼は「弱き者は平和を願う」という人気取りを採用した。アメリカがケツを持つから、日本は弱者じゃなかったのにね。左翼は「弱者が正義」という構図を強化すべく、「従軍慰安婦はみな強制連行」「在日はみな強制連行」という嘘図式まで使った。在日の方々も嘘だって知ってたけど、ポジションと発言力獲得のために、座布団に座ったんだね。
 
宮崎
 「在日=強制連行された被害者」説は、主と大学東京の鄭大均教授によってほぼ完膚なきまでに反証されています(「在日・強制連行の神話」文春新書)。
 
宮台
 鄭さんが在日から反発されるのは、事実と違うからじゃないよ。「そんなことを今さら言ってどうする」「俺らには俺らの都合があったんだ」という反発。その意味では愛に地のほうが日本人よりも遥かに再帰的だね。再帰的なら救いはある。
 
宮崎
 日本のほうが、まだベタに信じている。
 
宮台
 つくる会が「在日にしろ慰安婦にしろ、全員強制連行は真っ赤な嘘」と正しいことを言ったけど、その後はどうなったっけ?
 
宮崎
 全く公式見解に組み込まれていませんよ。一部の跳ね上がり右翼の「妄言」ということで公的には「処理」済みです。だから、安部晋三すら、村山談話河野談話を「踏襲」せざるを得なかった。日本を支配する「見えざる力=空気」と抗争を続けてきた小林よしのり氏の焦燥がよくわかるよ。
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