書籍『南京の真実』について

上記ジョン・ラーベ日記からの引用は、
まず1997年に出版された単行本から、該当部分を書き写し、その後で2000年に出版された文庫版でチェックを行いました。


当書籍に関しては、その他の期間も含めて、
id:ni0615さんがまとめられている。 15年戦争資料 @wiki ラーベの日記  に多くの情報がまとめられております。
その中でも触れられておられますが、本書籍に関しては誤訳等に関しての幾つか指摘がされております。



東中野修道センセイの次のような指摘をしています。

『正論』平成10年七月号
やはり「ラーベの日記』は三等史料 東中野修道
・・・・・・
そして更に、十二月十三日の日記原文には、大いに驚かされた。
「我々は(訳者註、ラーベたち国際委員会のメンバア三人は)大通りも沿って慎重に慎重に車を進めた。あちこちに手榴弾が散乱している。それを踏めば空中に吹き飛ぶ危険があった。上海路へと曲がると、何人かの市民の死体(verschiedene tote Zivilisten)があって、もう日本軍が入って来ている」
原書の「何人かの市民の死体」が、訳書では「沢山の市民の死体」と変った。辞書には「何人か」「幾人か」の用例が有るから、不注意な誤訳とは思えない。
・・・・・・

該当箇所を日独英版で比較してみると。
日 沢山の市民の死体
独 verschiedene tote Zivilisten
英 several dead civilians
「市民の死体」は共通なので、問題はverschiedeneの訳の問題になるかと思います。
翻訳者の平野さんはドイツの大学をでたドイツ文学の専門家だし、東中野センセイは東ドイツ史の専門家であり、どちらが正しいかは判断できませんが。
verschiedeneをオンラインの辞書で調べた限り 参考1 参考2
「沢山」が妥当とは言えないのかも知れないけど、several以上 many未満 といった印象を受けます。


一応。文庫本のあとがきを引用しておきます。

文庫本あとがき

 本書はドイツ・ジーメンス社の社員として中国で三十年をすごし、日本軍の南京攻撃の際にアメリカ人と力をあわせて安全区を設置し、二十五万人といわれる中国難民を保護するために一身を投げ出したジョン・ラーベというひとりのビジネスマンの半年間にわたる日記である。ここには南京陥落前後の半年間が驚くほど正確に克明に記されている。だが単に歴史の貴重な証言であるだけでなく、希有な人間ドラマであるところに、この日記の得がたい価値があるといえよう。


 編者エルヴィン・ヴィッケルト氏は、かつて駐中国大使を務めた外交官であり、著名な歴史学者でもある。一九三六年十一月、学生だった氏は、旅行の途中で南京のラーベ家に数週間滞在している。九十年代はじめ、氏はその自伝『勇気と高慢』のなかでラーベにふれ、ラーベが当時記録をつけていたらしいと記した。九五年になって、ラーベの孫ウルズラ・ラインハルト氏から連絡があり、初めて日記の存在を知ったという。この日記は、ラーベを直接に知っているだけでなく、第二次大戦中、外務省の広報官として日本と中国で勤務していたヴィッケルト氏というまたとない編者を得たことになる。


ラーベの日記は資料を含めると膨大な量にのぼるが、かなりの部分が個人的な覚え書きや家族との連絡などに費やされている。このなかからヴィッケルト氏は、特に重要だと思われる部分を丹念に拾い上げた。これが九七年に出版されたドイツ版であり、本書はこれをそのまま訳出したものである。ただし、編者の解説と資料については(日記中に編者によって挿入されたものも含め)抄訳し、戦後の日記は省いた。これはすべて編者および原出版社の了解を得ている。
 当初「日本・ドイツ・アメリカ三国同時出版」とう企画で出発したため(アメリカは結局遅れた)編集作業と翻訳作業は同時に進行し、その結果ハードカバー版では、次々と送られてくる修正原稿を訳出する上で自ずとタイムリミットが生じた。ヴィッケルト氏の編纂方針は一貫しており、大きな修正はなかったものの、今回文庫版として発行されるにあたり、ドイツ版とつきあわせ、完全な形にする機会が与えられたことは訳者にとって大きな喜びである。


 なお、読みやすさを考え、注は最小限にとどめた。説明を加えたほうがよいと思われたところ(たとえば、二三三ページ、詩人リーリエンクローンの名前、二三八ページ、パンチェ・ラマの地位についてなど)は、本文のなかに補ってある。
 原文は当然ながらすべてアルファベット表記であり、どうしても判明しなかった固有名詞については、音読みとし、ルビをふってある。また、文中太字になっているところは、原文でイタリックまたはアンダーラインで強調されている部分である。さらに、中国の人名・地名などは、煩雑さをさけるため、あえてふりがなをつけなかったことをお断りしておく。