石原慎太郎インタビュー


石原珍太郎慎太郎閣下のインタビューといっても、今から20年近く前に、月刊『 PLAYBOY 』1990年11月号で行われてたものです。
当時の閣下は、自民党総裁選に出て落ちてみたり、ソニーの盛田さんと『「NO」と言える日本』を出版したりしてた頃で、インタビューでもアメリカ人インタビュアーに対して鼻息荒く「NO」を訴えてます。
実は南京事件に関して言及している個所があるということで、チェックしてみたんですが、全編ツッコミどころや、いろんなと考えさせられる個所多数だったので、まるごと引用してみました。この後すぐにソ連崩壊とバブル崩壊という超特大イベントが起こることを考えると、また味わい深いかと。

石原慎太郎 
アメリカ版PLAYBOY」誌のインタビュー・スタッフが迫った"「NO」と言える日本人"
 
 挑発して本音に迫るのを得意とする、アメリカン・スタイルのインタビューのゴングが鳴った。相手はこれまた、挑発的な内容のその本でアメリカを激怒させたシンタロー・イシハラ。自らをふつうの日本人とはどこか違う"エイリアン"ととらえる、この政治家にして作家は、ここにそのストレート な「本音」を表現した。
 
 石原慎太郎氏と盛田昭夫氏の共著『「NO」と言える日本』は、アメリカ国防総省内の国防高等研究計画庁(DARPA)によって「内部資料として」(同省スポークスマンの説明)英訳されたものだったが、やがて連邦議会の議員たちの目にも触れるようになり、ついには連邦議会議事録にも載った。当時(1989年11月ごろ)は貿易不均衡をめぐって日米関係がギスギスしているときでもあり、この本はアメリカの各界で大いに問題にされた。
 石原氏とのインタビューを担当したアメリカ版『PB』の寄稿編集者デイヴィッド・シェフはこう印象を語っている。
 「『神による禍』とヨーロッパ人に恐れられたフン族アッティラ王の後裔のような人物に出会うだろうと思っていた記者の予想はまったくはずれ、石原氏はよく笑う、若若しい政治家だった。
 何回目かのインタビューを終えて記者が帰りかけたとき、石原氏はこう言った---『いちばん重要な貿易問題にまだ触れてませんね。アメリカ政府は日本政府に、アメリカから輸出したPLAYBOYのヌードに墨を塗らないよう圧力をかけるべきだと、私は思いますよ』 (水上峰雄訳)
 
 
PB
 「『NO』と言える日本」は日米両国の議論の的となりました。ごたごたを起こそうとしてあの本を出されたのですが。
 
石原
 現在の形であの本をアメリカで出すつもりはまったくありませんでした。私の意志に反して、海賊版アメリカで出回ったんです。この違法な翻訳出版のことを最初に聞いたときには、こともあろうにそれが、議会内で読まれているということでしてね。しかも、連邦議会議事録にも載せられたというじゃありませんか。やっと1冊手にいれてみると、誤訳は多いし、重要な部分が意図的に省かれているという始末です。非常に不愉快です。私の著書の海賊版を流通させたことは、言論の自由に対する侮辱でしたからね。私は一種のリンチに遭ったんで、これはアメリカにとって恥ずかしいことです。正式の正確な翻訳を出版する計画で、いま準備を進めています。これが出たときに、違法な翻訳を出したことで国防総省を訴えようと思っているんです。
 
PB
 あの本のもっとも問題となった主張のひとつは、日米間の緊張状態の大部分は、貿易問題が原因ではなく、日本人に対するアメリカ人の人種的偏見が原因だというものでした。石原さんの見解の要約としては、これは正確ですが。
 
石原
 疑問の余地なく、それは事実だと思っています。アメリカ人の日本人に対する人種的偏見の根は非常に深い。
 
PB
 人種的偏見(レイシズム)ですか?危惧(フィア)じゃないんですか。
 
石原
 (ゆっくりと英語で)人種的偏見に基づいた危惧です。
 
PB
 日本の経済支配に対する危惧ではないんですか?
 
石原
 『ニューヨーク・タイムズ』はふたつの企業合併を報道しました。ひとつはソニーパラマウントで、もうひとつはあるオーストラリアの企業と20世紀フォックスとでした。このふたつの企業合併についての記事の書き方を比較すれば、日本人に対しての人種的偏見があるのがわかります。ソニーパラマウントの合併について、ロックフェラー・センターなど日本の対米投資について、あるいはソニーコロンビア映画買収に関してかしましく議論されましたけれども、アメリカの企業と不動産に対する日本以外の外国からの投資は、まったく話題にならない。イギリス、カナダ、オランダは、日本と同じように、アメリカに多額の投資をしていますが、こうしたイギリスやオランダの対米投資については誰も何も言っていません。これは私だけが言っていることじゃない。元商務長官のピーター・ピータースンさんも、日本人に対するアメリカ人の人種的偏見が両国間の貿易問題を、それがない場合よりもはるかに深刻なものにしてきた、と言っています。
 
PB
 しかし、日本が経済大国として台頭してきたのは比較的最近のことですから、いまのお話は単純すぎやしませんか?
 
石原
 人類の歴史の中では、多くの国が戦争に勝ち、また多くの国が戦争に敗れてきています。戦勝国はとかく優越感をもつけれども、これはまことに人間らしいこと、しごく当然のことです。これまで何度も何度も起きていることですね。これは戦争の遺産ですが、もうひとつ別のものがある。西欧人が有色人種に対して感じていることが、それです。考え方をはじめいろいろなことの近代化の大部分は、西洋人がつくりだしたものです。この近代的なことの中に含まれなかった有色人種は西欧人の優越感の対象になりました。西欧人が、後進国と考えた国を植民地にした例もあります。この近代化の時代が終ったあとも、この時代をはじめた西欧人の子孫であるアメリカの白人は有色人種に対する偏見をもちつづけたんです。
 日本はたまたま、近代以前に文化面では先進国であったし、19世紀に西欧列強がアジアに進出してきたときに、ただちに近代化の重要性を認識しました。そして明治の指導者たちの尽力で、有色人種の国のうちで日本だけが急速に近代化に適応したわけです。一部の分野では、日本はヨーロッパと米国を凌駕しました。この事実と、先端技術で非白人人種がアメリカ人に追い付き、そして追い越そうとしているという事実が、アメリカ人には我慢ならんのです。
 
PB
 日本人のアメリカ人に対する---外人に対する偏見のほうがいくらかでも少ないのですか?
 
石原
 もちろん、日本人は非日本人を意識していますよ。白人は肌が白く、黒人は黒く、東南アジアの人たちは自分たちと同じ黄色人種だが、肌の色がもう少し黒いという形でね。日本人の優越感の一部はまだ残っているけれども、大部分はすでに消え去ってしまっていますね。
 
PB
 ヴェトナム人や韓国人などの日本国内の少数民族に訊いたら、別の意見をもっているかもしれませんよ。
 
石原
 たしかに偏見は存在しているけれども、こうした少数民族に対していまは以前ほどの偏見はもっていません。たとえば、ヴェトナム難民を受け入れるべきではないという考え方が広まっています。この意見に私は賛成しませんけれども、ヴェトナム難民を受け入れたくない人たち---労働省法務省の利害関係を代表している人たちは、偏見からこう考えているのではありません。彼らが挙げている理由は、私に言わせれば非合理的ですが、人種差別的なものではありません。社会の安全の維持とか、受け入れにかかる費用を問題にしているのです。私はヴェトナム難民を受け入れるべきだと確信しています。日本はいま労働力の不足に悩んでいるんですから、彼らを受け入れない理由なんてありゃしません。
 
PB
 アメリカ人が日本人に人種的偏見を抱いている証拠として、アメリカは日本に原爆を落としたがドイツには落とさなかったということを、石原さんは挙げておられる。しかし、ドイツが降伏したとき、アメリカはまだ原子爆弾をもっていなかったのですよ。こういう誇張された、しかも不正確な指摘を耳にすると、石原さんが意図的にアメリカ人に対する日本人の反感を煽りたてようとしているように思えます。
 
石原
 大多数の日本人が抱いていた感情を、単に言葉にしただけです。たいていの日本人は心の中でそう思ってるんです。アメリカ人が聞くと不快かもしれませんがね。
 
PB
 しかし、歴史的事実ではないことです。
 
石原
 アメリカ人は一般に、あの原爆が落とされたときに何人の人間が死に、あの爆弾が原因の原爆症で何人の人間が死んでいったかを知りません。このことを指定するとアメリカ人は必ず「だって、日本人は真珠湾を攻撃したではないか」と言います。
 
PB
 日本の歴史は、それほど血にまみれていないと言うのですが?日中戦争の最中のあのすさまじい大量虐殺は絶対に正当化できませんよ。
 
石原
 拳銃や機関銃と原子爆弾とでは話が違います。同列には論じられません。それに、日本人が何をしたというんですか?どこで、日本人は虐殺をしました?
 
PB
 たとえば1937年の南京大虐殺です。10万人以上の民間人が虐殺されました。
 
石原
 日本軍が南京で虐殺をおこなったと言われていますが、これは事実ではない。中国側の作り話です。これによって日本のイメージはひどく汚されましたが、これは嘘です。
 
PB
 大多数の歴史学者は、石原さんとは意見が違います。
 
石原
 しかし、問題はそこではないんです。もちろん、戦争は残虐です。通常型の兵器ですらも多数の人間を殺傷するのを否定はしません。しかしです、あななたちアメリカ人は、あの原子爆弾を日本に落として20万から30万の日本人を殺したんです。そして後遺症である原爆症で、いまだに人が死んでいっているんです。これは虐殺といっても範疇がまったく違うというのが、私の見解です。人類の歴史で原子爆弾が実際に使われたのは、たった2度です。そして、2度とも、同じ国が同じ国に落としたのです。このような類の大虐殺が犯されたことは、それまでに一度もなかったのです。この事実は、日本人の脳裏から消えません。
 
PB
 日米両国でかつて人種差別があったという事実は別として、いまのアメリカでの反日感情の中には、厳しい現実に根を発したものがあります。デトロイトでは、少なくとも失業者自身は、日本の自動車が原因で自分たちは職を失ったと考えています。
 
石原
 彼らの見当ちがいですよ、それは。アメリカの労働者が恐れなければならないのは、日本人じゃない。アメリカの政治家たちと、産業界の指導者たちです。
数年前ですが、トヨタとGMが組んで、カリフォルニアの新しい会社をつくり、その会社のある大きな工場では、GMの車とトヨタの両方がつくられていました。で、現実にどういうことが起きたかというと、GMの車の売れ行きは芳しくなく、トヨタ車のほうは非常によく売れたんです。これだけ売れ行きに明らかに差がある車をつくっていたのですから、会社の経営トップは、この差の背後にある設計やその他の要因に注意を向けると、われわれなら考えますね。ところがアメリカの経営者たちは、自社の労働者たちや日本に責任を押しつけたんです。自分たち以外のあらゆることに原因があるとしたんですよ。
 
PB
 そうかもしれませんが、石原さんも実際に体験されたでしょうが、デトロイトでは、日本を責める人が大勢います。
 
石原
 そう、デトロイトの市民の半分は私に敵意をもっていたようだけど、残りの半分は味方でしたよ。デトロイト選出のサンダー・レヴィン下院議員から自分の選挙区に行ってみるべきだと進められたとき、ある人は、あんな所に行ったら、石原さん、議会以上に袋叩きに遭いますよ、と忠告してくれました。私は、デトロイトの自動車労働者は私に石をぶつけるかもしれないけれども、本当は、アメリカの経営者や政治家に石をぶつけるべきなんですよ、と返事しました。デトロイトで同じことを言いましたら、労働者たちは熱心に聞いてくれた---と思います。拍手してくれた人さえいましたね。
 
PB
 デトロイトでお会いになった労働者から影響を受けられましたか?
 
石原
 対話をして、心強く思いました。日本の市場が閉鎖的だという彼らの主張に同意できないというわけではないんですが、日本の市場の閉鎖性は、アメリカの産業が抱えている真の問題はアメリカ人経営者であるという事実とは無関係なんです。アメリカの経営者は無責任です。アイアコッカさんがいい例ですな。
 
PB
 どういう無責任なことをしました?
 
石原
 ひとつ、実例を挙げましょう。日本がやむをえず、円を切り上げたときのことです。これで日本の輸出競争力は自動的に弱くなったはずでした。こういう情況ですから、アイアコッカさんは日本の車に比べるとずっと有利な価格で車を売り、アメリカの自動車産業は市場のシェアを広げられたはずでした。ところがアイアコッカさんは、日本車の価格が上がったのに合わせて、自社の車の値段も上げたんです。車1台当たりの利益を増やそうという考え方であって、実質的な価値が高くなった車を顧客に提供しよう、シェアを増やそう、販売台数を増やして、労働者をレイオフしないで済むようにしようとは、考えなかったんです。アイアコッカさんが自社の車の値段を上げなかったら、クライスラーの車と日本車との間の価格差はかなりになり、おそらく顧客はもっと多くのクライスラーの車を買っていたはずです。高校生にでもわかることですがね。
 アメリカでは、アイアコッカさんは国民的英雄の扱いを受けているかもしれませんが、日本ではまったく高く評価されていません。あのての経営者は、日本ではまるで尊敬されません。
 
PB
 アメリカはNOを言うべきだという趣旨のことをミスター・アイアコッカが言っている理由は、日本でそういう評価をされているからじゃないんですか。
 
石原
 アイアコッカさんが無責任で、無能で、やりくちが汚く、口から出まかせを言うからです。
 
PB
 石原さんがなんと言われようと、ミスター・アイアコッカは多くのアメリカ人の感情を代弁しています。
 
石原
 リーダーの自分の会社に対する責任、さらにはもっと大きい、社会に対する責任をどう考えるかで、日米間には大きな差がありますね。松下電器の創設者の松下幸之助氏は、日本では経営の神様として有名ですが、松下氏が経営者として成功し、松下電器が企業として成功したのは、松下氏が社員に対する義務を果たしたからなんです。
 景気が悪くなっても、松下氏は社員をレイオフしようとはしませんでした。経営者に大切にされ、尊敬されている従業員は、自分が働いている企業に確固とした忠誠心をもつようになります。
しかし、アメリカでだったら、松下氏はすぐに、経営者として失格してしまったでしょうね。アメリカでは、経営者は四半期ごとに、コストを削減するために何をしようとしているかを、株主に報告しなければなりません。松下氏のように、従業員をレイオフしようとしない経営者は、株主にきびしく批判されるでしょう。松下氏なら、レイオフをする代わりに、経営の多角化を図ったり、余剰になった従業員を他の部門に移すでしょうね。この経営方針だと、株主が利益配分を受けるのが遅くなるかもしれませんが、長期的展望のほうが大事なんですよ。従業員のほうが大事なんだ。
 アイアコッカさんは日本から部品を買っているくせに---その中には自動車をつくるのに不可欠なものすらあるんですよ---あるいは、日本製の車を輸入してクライスラーのブランドで売っているくせに、アメリカ人はノ本の製品を買うと文句を言っているんです。アイアコッカさんの最大の敵は日本人じゃなくて、当の本人ですね。
 
PB
 国防総省がした石原さんの著書の翻訳では重要な個所が省かれているし、文脈を抜きにして翻訳された部分もあるとおっしゃっていますね。例を挙げていただけますか。
 
石原
 日本がNOと言うべき問題があるが、その一方で、日本ははっきりとYESと言わねばならない問題もいくつかあると、私は書いたんです。あの本にそう書いただけでなく、出版後も繰り返し、このことを言いつづけていますが、オミットされています。無視されているんです。
 
PB
 何に対して日本はYESと言うべきなんですか。
 
石原
 日本の国内市場は完全に開放されるべきだと、私は思っています。現在まで、極端な保護主義が日本に、ビジネスの世界での強力の競争力を与えてきました。しかしいまや、日本が輸入しなければならない品目は多数あります。日本はアメリカにYESと言って、市場を開放するべきです。ただし、ここが大事なんですが、アメリカにYESと言うために市場を開放するのではなく、日本の消費者の利益のために開放するべきなんです。
 
PB
 貿易の不均衡を是正するために、まったく例外なしに、市場を開放するというのが、石原さんのお立場ですね。
 
石原
 そうね、いまでは日本の各産業は強力な競争力を身につけていますから、日本の市場はいかに自由化されようとも、アメリカがシェアを増やすどころか、減らすんじゃないでしょうかね。ためにならないからそんなことを言うなって忠告されてるんですが、市場開放は、日本の市場が外国製品に蹂躙されることを意味しません。各国が短期間、日本への輸出を増やすかもしれませんが、いずれは自由競争の日本市場で敗退していくでしょう。要するに、アメリカは日本の市場の自由化が貿易不均衡の解決策になると期待していますが、そうではなかったということを、体験からさとるでしょう。
 
PB
 半導体と自動車のふたつの産業だけに限っても、日本は圧倒的優位に立っていますから、輸入は禁止したり、懲罰的関税をかけるべきだという声が上がっています。こういう処置にはどういう影響があるでしょう?
 
石原
 日本の情況に悪影響を与えるだけでなく、自由貿易体制が崩壊してしまうでしょうね。
 
PB
 ただ日本を満足させるために、アメリカはYESを言わなければならんのですか?日本は自らの弱点を克服し、西欧と競争できる経済を築き上げるために自国の市場を保護したことは、石原さんも認められました。その種の保護主義が日本で効を奏したのなら、アメリカについても同じなんじゃないですか?
 
石原
 アメリカは超大国ですから、何をしても世界経済に影響を受けます。保護主義は世界経済全体を後戻りさせてしまうでしょうね。アメリカは大きな市場であるだけでなく、産業超大国でもあります。開かれた環境があってこそ、アメリカは自らを蘇らせる努力をすることができるのです。ふたたび優秀な製品をつくりだすことを、アメリカは学ばねばならないんです。
 
PB
 石原さんはあの本の中で、日本はアメリカを見捨て、ソ連と協力しようと思えばできる---半導体先端技術をソ連に供与して、世界の力のバランスを変えられると、脅迫しておられる。この脅迫はアメリカはどう対応すべきなんですか?
 
石原
 コンピュータ用集積回路について私が言ったことは挑発的でしたが、騒ぎ立てられすぎたものだから、私の真意が伝わっていない。
 3年前のことですが、私はワシントンで、何人かの政治家の方たちと激しい議論をしました。半導体輸出への制裁に関する決議案をアメリカ議会が通した直後で、ワシントンがヒステリー状態にあったときです。私が話をしたある人物は、世界でいま力の推移が起きており、アメリカは急速にソ連に接近中だ、もし日本がいまのような態度をとりつづけるなら、アメリカは日本を見捨てるかもしれない、と言ったんです。そこで私は、日米関係はこの両国にとって重要なだけでなく、世界全体にとっても重要なのだ、そしてこの重要度はいまもっとも高い、アメリカが日本を見捨てたら、日本は行動の自由をもつことになるでしょう、そこで、もし日本が第5世代コンピューター用の集積回路ソ連を輸出したら、アメリカはおそらく困難な立場に立つことになるんじゃないですか、と言い返しました。そのとたん、誰も黙りこんでしまいました。
 
PB
 やはり脅迫に聞こえますね。
 
石原
 事実は述べたまでです。日本はもはやアメリカの腰巾着ではないんです。自国の利益に反しているときですら、アメリカを喜ばすためにYESと言わざるをえない国ではなくなっているんです。日本を蚊帳の外には放り出せませんよ。
 
PB
 石原さんの主張は誤った前提に立っています。アメリカはその種の半導体をつくれますし、現につくっています。
 
石原
 256キロビットの集積回路なら、アメリカは必要量を自給できますが、将来を決定する集積回路、第5世代のコンピュータには不可欠の1メガビットや2メガビットの集積回路アメリカではつくられていません。少なくとも、品質が安定したものはつくられていないのですが、これはICBMを目標まで誘導するのにどうしても必要なものなのです。半導体技術では日本はアメリカより5年進んでおり、このギャップは広がってきています。集積回路が高度になればなるほど、日本の優位が際立ってくるんです。アメリカは日本の集積回路に依存しているんですよ。
 
PB
 日本は---
 
石原
 (『PB』の質問をさえぎって)いいですか。妙な話なんですが、日本の半導体技術は核超大国核戦略の基礎なんです。非核三原則をもっている日本の技術がです。この事実は、米ソ間の戦略兵器削減交渉(START)を進展させるのに役立ったと、私は確信しています。
 
PB
 どうしてですか?
 
石原
 第三国の助けなしには、米ソ両国とももはや戦略兵器を進歩させられなかったんですから、合意を達しようとする動機がそれだけ強かったのですよ。これほど日本人にとって気持ちのいい復讐はほかにありませんね。なにしろ、核兵器の爆撃を受けた国が、核兵器保有量の削減に対して、さらにおそらく、核兵器の使用に対しても大きな影響力を発揮する立場に立ったんですから、きわめて高度な復讐といえるんじゃないですか?
 
PB
 ところで、航空産業の分野では、石原さんは、ジョイント・ヴェンチャーを提案されておりませんね。アメリカが優位を保っている産業をまた征服しようというんですかね?
 
石原
日本は世界でもあまり前例のない大きな航空機事故を経験しました。原因はボーイング社製航空機の修理ミスでした。ある日本人ジャーナリストがシアトルに行き、ボーイング社の副社長にインタビューしたところ、従業員教育に問題があるのを認め、再教育と再訓練を実施しようとしているところだと説明しました。しかし、再訓練には数年かかると、この副社長はいったそうです。ということは、その数年間は、たとえ就航したてのボーイングのジェット旅客機でも、不安を感じずに乗ることができないぐらい安全性に問題があるということですよ。こんな心配をするぐらいなら、日本は自前で飛行機をつくったほうがいい。
 
PB
 日本人のほうが優れた飛行機をつくれるという前提にたっての話ですね。
 
石原
 日本人はすでに、アメリカでつくられた同じ戦闘機よりも欠陥の少ない戦闘機を製造しています。ですから、民間機もつくれるはずで、そうすれば、多くの人命を救えるんじゃないかと、私は思っています。ですから、アメリカが7年も8年も待てと言うんなら、自国で飛行機をつくったほうがいいんじゃないでしょうかね。でも、こんなことを言うと、また誤解が生じてしまいますな。
 
PB
 日本がアメリカにNOと言うべきだったそのほかのケースを挙げてください。
 
石原
 アメリカは実質的に、自前で戦闘機を製造しようとする日本の計画をつぶし、日本は、これより性能の劣る戦闘機をアメリカとのジョイント・ベンチャーでつくることに同意しました。アメリカとの交渉で中曽根元首相は---この人をレーガン大統領に紹介したのは私なんですがね---まるで将軍の前に出た海兵隊の軍曹みたいに「イエス、サー」しか言っていない。「ノー、サー」と言うべきときがたくさんあったのにです。中曽根さんは、戦略技術もそうですが、重要性を認識せずにアメリカにあまりにも多くのことを約束してしまいました。NOと言えなかったために、中曽根さんは強い切り札を捨ててしまったんですよ。
 
PB
 アメリカが日本にFSXを自国だけで開発・生産しないように要請した---あるいは圧力をかけたのは、日本が独立した軍事大国になるのを深く憂慮したのが、根本的な理由だとお思いになりませんか?
 
石原
 日本が軍事大国になるなんて不可能ですし、またその必要もまったくありません。FSXは日本が独自の戦力をもつのを可能にするだけのことです。単にそれだけのことですよ。それも、アメリカに求められたことを実行し、防衛負担を分担するためです。ところがアメリカは、日本がより優秀な飛行機を開発・製造するかもしれないということが許せないんですね。日本は、アメリカのすべての要求に屈してきています。
 
PB
 日本はもはやアメリカの軍事力の傘を必要としないし、日本国内にある基地は日本のではなく、アメリカの安全保障のためなのだから、アメリカは基地使用料を払うべきだと、石原さんはおっしゃっています。石原さんの真意はこのとおりですか?
 
石原
 日本にあるアメリカの戦略基地は、アジア地域にあるアメリカのどの基地よりも規模が大きく、より機能的で、また重要性も高い。これらの基地はハワイやケープタウンもカヴァーしています。南半球の2分の1を、日本にあるアメリカの基地がカヴァーしているのです。日米安全保障条約によって設けられているこれらの基地の重要性は、アメリカの全般的な安全保障にとって非常に大きい。日本にある基地がケープタウンをカヴァーできるということは、まったく日本と直接の関係はないのです。アメリカの戦略の一環なんですよ。
 
PB
 しかし、日米間の軍事協定は、事実上、両国の防衛戦略を結合しているんですよ。
 
石原
 日本に水爆を落とされたら、アメリカは水爆で報復攻撃をするでしょう。しかし、日本は3発の水爆で壊滅してしまうんです。アメリカに報復能力はあるでしょうが、それを使ったとしても日本にとっては遅すぎるんです。現存している早期警戒システムは北アメリカだけをカヴァーしています。ヨーロッパやアジアのアメリカの同盟国や友好国にとっては、早期警戒システムは機能しないんですが、これらの国は、アメリカよりもソ連に近いんです。敵に日本への第一撃を思いとどまらせることができる、早期警戒システムがないんです。アメリカが第一撃の対象になったときは、早期警戒システムが報復攻撃を可能にしますから、抑止戦略ははるかに有効なんですがね。日本人は、アメリカは事実上、日本を保護したり防衛したりはできないということを知るべきです。フランスのドゴール大統領が独自の核兵器をもつべきだと決断した理由はこれだと、私は思っています。
 
PB
 日本は独自の早期警戒システムと核抑止力をもつべきだと言っておられるんですか?
 
石原
 いや、そうじゃありません。しかし、日本の非核三原則に賛成できない理由はこれです。核兵器を日本に持ちこませないということには賛成できませんね。
 
PB
 話は変わりますが、多くのアメリカ人が日本の経済的成功に反感をもつのは、その成功のかなりの部分がドルのおかげだからです。この点、どう思われます?
 
石原
 そのとおりだと思いますよ。アメリカには非常に世話になっています。しかしですね、いま日本がこんな国になってそいまったのは、アメリカにも責任がありますね。精神的に独立していない国、経済的な繁栄しか考えることができない国になってしまったことに対してです。戦後の日本は、結局、アメリカが望んだとおりの国になりました。
 
PB
 ご両親はアメリカに反感をもっておられましたか?
 
石原
 戦前の日本人は、ほぼ例外なしにそうだったんじゃないでしょうか?
 
PB
 初めて接したアメリカのものは?
 
石原
 戦後日本にやってきた映画とラジオで放送されていた歌ですね。(英語で歌いだす)"Kiss me once and kiss me twice and kiss me once again/it's been a long,long time"これは恋人のところへ戻ってきた兵士を歌ったアメリカの歌ですけれど、戦争中の日本の歌とあまりにも違うんで、日本があの戦争に負けた理由はこれだと思わざるをえませんでしたね。
 
PB
 どうしてです?
 
石原
 戦争中の日本人の心の中には苦悩と絶望しかありませんでしたから、こんな感情が入りこむ余地がなかったからです。
 
PB
 敗戦を知って、どう思いました?
 
石原
 (英語で)敗戦が何を意味するのか想像できませんでした。怖かったです。
 
PB
 戦後はどう生きられたんです?
 
石原
 海軍兵学校に行くつもりだったんですが、もちろん敗戦で海軍はなくなっていました。で、画家か作家になってやろうと思ったんです。学校に行かずに1年ほど東京に住んで、絵を描いたり、芝居やオペラを観に行ったりしていました。そうこうするうちに親父が死んだものですから、学校に戻り、さらに大学に進学しました。当時、公認会計士になれと言われていました。お金になるからです。それで一生懸命勉強したんですが、難しいうえに退屈でしてね。それで映画監督になろうと決めて、試験を受けて、東宝という会社に入りました。
 
PB
 どういう映画をつくられたんです?
 
石原
 監督した作品は2本です。作家にならないで映画界に残っていたら、黒澤明以上の監督になっていたでしょうね。
 
PB
 黒澤監督はお嫌いなんですか?
 
石原
 黒澤作品は、日本では、アメリカやヨーロッパほどには、高級とは思われていないんです。
 
PB
 政治の世界に入られたのは、どういうきっかけからですか?
 
石原
 ある新聞社から特派員をやってみないかという話があって、ヴェトナム戦争を取材を行ったんです。ヴェトナム戦争を取材に行ったんです。ヴェトナムに行ってなかったら、政治家にはなっていなかったでしょう。ヴェトナムから日本に帰ってきたとき、政治の世界に入っていきたいという強い衝動を覚えたんです。それで、参議院に立候補して・・・・・・あれはどう英語に訳すんですかね・・・・・・全国区の議員になったんです。
 
PB
 あの本が出たときに衝撃を受けたのは、ひとつには、はっきりものを言う日本人はめったにいないのに、石原さんが歯に衣を着せずに直言されていたからです。いまになってやっと、日本のリーダーがこういうふうに率直に意見を言うようになったのはどうしてですかね?
 
石原
 (英語で)私がエイリアンだからですよ(笑)。日本では、率直にものを言うのは悪徳であって、美徳ではないんです。激しい議論をやりすぎると、友人を失うことになってしまう。
 日本では、個人主義は望ましくないことなんですね。悪徳です。しかし、やっと最近になって価値観が変わりはじめたと、私は思っています。思っていることをはっきり言うべきときだと、日本人が感じていると思いますね。
 
PB
 石原さんの強気に困惑している日本人がいますね。
 
石原
 私が言っているようなことを聞きたいと思っている日本人がいるのも、はっきりしています。あの本の部数が100万部に達しましたからね。日本人の大多数は、日米関係に不安をもっていると、私は思います。地理的環境から、日本人は日本と呼ばれているひとつの世界と、その外にあるもうひとつの世界という見方をします。共通の世界というよりも、平行的な世界という考え方ですね。私は非常に保守的に育てられ、天皇は神だと教えられました。ばかばかしいと思いつつ、そうしないと父が怒るので、電車が鳥居の前を通るときにはおじぎをしました。日本人の大多数が、いまだに別の時代に生きています。しかし、世界は変わろうとしているんです。世界は小さくなってきていて、外の世界がいろいろな形で日本に影響を与えています。ですから、日本人は世界観を変えなくてはいけないんです。日本の影響力が強くなってきていますから、日本人が幅の広い見方をするのが非常に大切なんです。
 
PB
 日本人、とくに若い人たちは、その新しい生き方にも不満だという報道がたくさん出ていますね。ミスター・アイアコッカも、日本人は馬車馬みたいに働かされているって言ってますしね。
 
石原
 そりゃナンセンスだ。まったく正反対ですよ。アメリカの労働者こそ、馬車馬みたいに働かされているって思っているんじゃないですか。不況になったら簡単にレイオフされるし、アイアコッカさんのように経営者は莫大な報酬をとっていて、貧富の差が広がっているんですからね。また、経営者は従業員を一段下の階級に属しているかのように見下していますしね。働いても惨めな暮らししかできないと思いはじめているのは、日本の労働者じゃなくて、アメリカの労働者ですよ。ポーランドレフ・ワレサさん(「連帯」議長)が日本にきたとき、ある工場を訪れて、これまで見たうちでもっとも理想的な仕事場だと言っているんです。とくに労使関係にふれてワレサさんは、日本は世界で最も進んだ社会主義国だと言いましたが、私も同意見ですね。
 
PB
 あの本の正式な英語版を準備中だということですが、それがどういう影響をもつと考えておられます?
 
石原
 日米間の意見の相違について理解が深まることを期待しています。より深い相互理解に基づいた実りのある意見の交換ができると、私は本心から思っています。日米間には率直な対話が必要です。日本人が率直にものを言う習慣を身につけるよう、私は最善を尽そうと思っているんです。日本とアメリカの間で本当に不均衡なのは、率直な対話ですからね。